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人間性が穏やかな三重県、離島でも優しく迎え入れられた
私は松阪市出身で、自治医科大学を卒業後に三重県で勤務を始めました。今は三重県鳥羽市の伊勢湾口に位置する離島、神島にある鳥羽市立神島診療所の所長をしています。神島は鳥羽港から北東約14キロメートルの海上にあり、三島由紀夫の「潮騒」の舞台になったことで有名な島です。神島には県の派遣で2009年から勤務していましたが、へき地医療をより深く学ぶため2013年から島を離れて国内外の病院で研修しました。2015年に戻り、現職です。診療所での診療以外にも往診、学校医の仕事などをしています。その他、答志島や市内のへき地診療所でも勤務していますし、三重県へき地医療総括監や三重県地域医療研修センター長も務めています。
家族と神島に住んでいた時期もありましたが、今は島外に住居を構え、週に4日間島に通い、うち1日は泊まっています。島の皆さんは私のことを島民だと思ってくれているので、学校の入学式、卒業式、運動会、お祭りなど島の行事には全て参加しています。行事以外でも地域の方々と触れ合う機会は多くあります。島へ来た当初は島外出身者である私が島民に受け入れられるか心配でしたが、三重県はそもそも人間性が穏やかな土地ですし、離島についても文化的に外から来る人に対して抵抗が少ないのか、皆さんに包容力があり、最初から優しく接してくれました。神島以外の島も同様だと感じています。
神島は三重県の離島の中でも小さい島です。小島ならではの点を一つ紹介すると、人間関係が非常に濃密なことが挙げられます。人間関係がわからないと治療方針を決められないことがあるくらいです。例えば島外の病院で入院する患者さんが退院後は島に戻って在宅医療を希望しているという場合に、島内にいる誰に連絡をすればいいのか、誰から助けが得られそうかなどがわからないと患者さんに対して最善の答えが出せません。そんなときは診療所に長く勤めている看護師さんと事務員さんに助けを求めます。お二人は島のことを何でも知っていて、私を支えてくれる心強い存在です。カンファレンスに人間関係の話題も多く上がるのが離島やへき地医療の特徴の一つかもしれないですね。
離島、へき地に医師を派遣する以外の道を模索 ― オンライン診療の導入 ―
全国的にどこも同じ状況だと思いますが、島の人口減少と高齢化を肌で感じています。神島も一時期は1300人ほどだった人口が現在は270人程度で、高齢化率は50%を超えました。それに伴い、診療所を訪れる患者さんも夜間の受診件数も減っていますから、診療報酬も減少の一途をたどっています。しかし住民は「最後まで神島で過ごしたい」と希望を持っているため、安心して暮らしてもらうため安定した医療サービスの提供が必要です。そのような状況の中でどのようにすれば島を医療面で安定して支えられるのか考え、新しい仕組みを取り入れる時期に差し掛かっています。
これまでの離島やへき地での医療は、医師を派遣することが前提でした。しかし、今後へき地は、ますます人口が減って広範囲に少人数が住む時代になります。同じやり方を続けていては、医療資源や財政の面で非効率となり、いつか地域の医療体制を維持できなくなると思います。それを防ぐために、へき地医療こそICTの力を使い、オンライン診療などを組み合わせていかなければならないと考えています。鳥羽市では島に医師が不在でも医療提供体制を維持するため、離島診療所(神島、桃取、菅島、坂手)のほか鳥羽市立診療所の3施設に、クラウド型電子カルテと遠隔診療支援システムを導入し、オンライングループ診療が行える環境を整備しました。これまでの医師一人で一島を診る体制ではなく、少人数の医師と看護師で複数の離島やへき地医療を支えることを目的とした施策です。
医師が島にいない時は看護師さんが最も重要な存在となります。へき地にいる看護師に対して教育する取り組みもスタートしています。三重県では地域でプライマリ・ケアが実践できるプライマリ・ケアエキスパートナースを育成しているのですが、診療看護師さんに協力していただき、新たにへき地で勤務する看護師さんへの教育(へき地ジェネラルナース研修)を提供し始めました。へき地の看護師さんはケアだけでなく調剤や医療事務も行いますし、住民からの相談事を然るべき人に繋げたり、オンライン診療では医師の代わりとなり患者さんの傍で診療を行ったりと複数の業務をこなし大活躍です。さらに学ぶことによって、知識や技術を高め、へき地医療の現場における看護師さんたち自身の価値に気付いてもらえれば、よりやりがいをもって仕事をしていただけるのではないかと考えています。このような人材育成の仕組みもうまく動き始めれば、人口がさらに減少しても住民には住み慣れた場所で安心して過ごしてもらえるはずです。今後も鳥羽市や関係する医療従事者と共に有効な仕組みを考えていきます。
全国どこに住んでも学びの機会はある
離島やへき地医療の話題になると、「島に一人きりで大変ですね」とねぎらわれることが多いですが、私は一人でいることにつらさを感じたことはありません。自分一人だから失敗できないという責任は感じますが、その状況に置かれていることを大変だと思ったことはなく、やりがいを感じることの方が多いです。
島にいると島で起こった医療的な問題だけでなく、保険、介護のことから飼っている犬のことまで相談が持ち込まれるのですが、それが島民から全面的に頼ってもらえているのだなと実感する瞬間です。島民の幅広い相談に乗るため、知識を増やしたい、技術的にスキルアップしたいという気持ちも自然と出てきますし、ありがとうと言ってもらえることも多いので日常的に喜びがあふれています。
島に一人でいると学びのチャンスがなく、医師としての技術を磨くことができなくなるのではないかと心配される方もいらっしゃると思いますが、コロナ禍以降は全国どこにいても幅広く勉強できる環境が整いました。医師向けセミナーもオンラインで受講できるようになりましたから、学びの機会についてはあまり心配しなくて良いと思います。私もウェビナーを活用したり、外部の先生や知り合いの医師に相談したりして自己研さんしています。コミュニケーションや島民との付き合いについては、前任の先生に聞けば教えてくれるはずです。私もいろいろと教えていただきました。前任者が勤務経験からアドバイスしてくれたことを聞き入れ、その通りにすれば大きな問題は起こらないと思います。
私の経験からアドバイスをすると、離島やへき地で勤務する前に不安に思いすぎないこと、準備をしすぎないことも大切です。全てのことが一人でできるようになってから行くのではなく、その場に行ってその場に必要なことを勉強し、少しずつ慣れていけば良いのです。
仕事が楽しいと思える生活ができていることに感謝
今の生活はとても充実していて、毎日楽しく過ごしています。仕事も生活もバランスが取れていてノンストレスです。休日にストレスを発散する必要がないので、休みでも仕事をしたい気持ちになるくらいです(笑)。家族も今は島外にいますが、神島に住んでいた時を振り返って「楽しかった」と言っていますし、家族全員が充実した生活を送ることができています。島民に頼られる存在であり続けられるよう、これからも腕を磨いていきます。また、離島、へき地医療の未来を考えられる立場にあること、現場で診療を続けられていることをありがたく思い、離島やへき地医療の現実と向き合いながら、今後起こる課題を解決するビジョンを描いていきたいと思います。
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