総合診療医となり地域医療を支えるホスピタリストへ転身
人材育成にも心血を注ぎ、住民の健康を守っていく

市立伊勢総合病院 内科・総合診療科
副部長 谷崎 隆太郎

埼玉医科大学医学部卒業。宮城厚生協会坂総合病院で初期研修し、国立国際医療研究センターで感染症のフェローとして研修したのち、地元へUターン。三重大学を経て、市立伊勢総合病院で病院総合診療医を務めながら三重大学医学部・教養教育院非常勤講師も兼任。人材育成に力を入れ、地域を支える仲間を増やすため活動を続ける。

インタビュー動画

長い修行を終え、顔が思い浮かぶ地元の人たちへ貢献したいとUターン

私は三重県志摩市出身で、父は三重県で開業医をしています。2006年に埼玉医科大学医学部を卒業した後は、三重県外で修行したい気持ちがあったため、初期研修を宮城厚生協会坂総合病院で行いました。2009年から岐阜大学医学部附属病院で救急医学を研修した後、2012年から国立国際医療研究センターで感染症のフェローとして研修していました。フェロー3年目の最終年次に進路を考える際に三重県へUターンする大きなタイミングがやってきました。それまでの先輩たちがアメリカの公衆衛生大学院へ留学したり、WHOやCDCへの就職を模索しているのを見ていて、自分の今後は「世界の人たちのために頑張る」か、「日本の地方にいる人のために頑張る」か、と考えるようになりました。地元・三重県をずっと離れていた私ですが、そんな時にふと伊勢志摩の人たちの顔が頭に浮かんできて、この人たちのために貢献していく方が私は向いているのではないかと思いました。父から三重県内の医療事情を聞いていると課題も多いようだったので、地元へUターンすることを決意し、2015年4月に三重県へ帰ってきました。

三重県に帰るにあたり重視したことは、学生と研修医を教育できる環境が整っているかどうかでした。自分が臨床医として目の前の患者さんのために頑張るのは当然ですが、今までのキャリアの中で学んできたことを伝えることでも貢献できると考えたからです。そうなると、まずは大学だろうと考えましたが、その中でも特に教育に力を入れているのが三重大学の家庭医療学講座(現:三重大学医学部附属病院総合診療部)でした。ちょうど、今後ニーズが高まると感じていた総合診療・家庭医療学について改めて勉強し直す機会にも恵まれ、名張市立病院の総合診療科で、今までのキャリアで得たことを還元しつつ、家庭医療学に長けた先輩・後輩たちと共に研鑽を積みました。
その後は総合診療の輪を広げていくため市立伊勢総合病院(通称:伊勢病院)へ移りました。今までこの病院になかった総合診療というものを持ち込み、総合診療外来を開設したのですが、幸い、院内の方々にも比較的すんなりと受け入れていただけました。伊勢病院は働き方の面でも柔軟で、例えば男性医師が6カ月間の育児休業を2回も取っていたり、家族の行事を優先して休むことも容易にできる環境があります。私も子どもの学校行事はフル参加していますし、以前は小学校のPTA会長も務めていました。
そんな環境にも教育機会にも恵まれた結果、伊勢病院には毎年総合診療の専攻医が勉強に来るようになり、ここで働く総合診療医の数も増加しました。
私自身も、他人に教育することでさらに自己研鑽に励まなければいけないというプレッシャーにもなりますし、自分と同じようなことができる人を育てれば育てるほど自分が楽になるので、組織全体で見た場合にも、人を育てていくことが何よりも大切だと実感しています。

診療科枠を超え、地域を支えられる総合診療医にやりがいを見いだす

総合診療の外来には、どの科に行っても解決しなかった人がたどり着くことが多いです。それは、稀な内科の病気であったり、身体症状が前面に出る精神の病気であったり、原因がその人の内面ではなく周囲の環境にあったりと、様々です。このような人たちをケアするには、臓器や領域別の切り口ではなく、包括的に診療する総合診療のスキルが最適です。また、他科の先生から「うちの科としては色々調べたけど、よく分からないから一度総合的に診てほしい」といった内容で依頼がくることがよくあります。他の領域別専門医の先生方が頼ってくださると私も伊勢病院に貢献できていることを実感しますし、さまざまな診療科と連携して患者さんを助けていけることにやりがいを感じます。

これからの日本は今後さらに高齢化が進み、例えば、多疾患併存、フレイル、ポリファーマシー、急性増悪を繰り返す慢性疾患の下降期、ACPなど高齢者に特徴的な健康問題に対峙する場面も確実に増えていきます。これらは特定の領域の知識、スキルだけでは対応困難で、どうしても陰性感情を抱いてしまう医療者も見受けられます。一方で、総合診療的なアプローチをすればこれらの問題にもうまく対応できるため、自身の自己効力感が向上し、陰性感情と向き合う機会が減るので、医師のウェルビーイングという観点でも良い影響を生み出します。
また、総合診療医は比較的地域住民との距離も近く、病気になって患者と呼ばれる以前の一住民の時期から関わることができます。その点も地域医療へ貢献していることが実感でき、充実感につながっています。かく言う私も、伊勢市の広報誌である「広報いせ」で毎月、健康なんでも相談室というコーナーで住民の皆さんからの質問に答えたり、正確な医学知識の普及に努めています。

理想を言えば、どの地域にもすべての診療科や職種がそろっていて24時間365日体制で患者さんを受け入れられることなのですが、現実世界でそれは不可能です。一方で、世の中の健康問題の90%はプライマリ・ケアで対応可能であり、地域住民の受療行動を見た研究では 90%は一次医療レベルだったと言われていますので、高度な知識・技術を要する専門医だけでなく、プライマリ・ケア医をより充実させることが重要です。現在の日本で系統的にプライマリ・ケアのトレーニングが受けられるのは総合診療専門研修だけですので、若いドクターに限らず、総合診療を学び直したいと考えている他領域の医師にもおすすめしたいところです。総合診療に長けた医師が増えれば社会問題の解決につながっていくと考えられるため、人材育成も含め、総合診療の輪を広げていくために活動を続けていきたいと思っています。

総合診療グループ「三重総診」や研修医育成「MMCプログラム」など取り組みが豊富で教育環境も安心

とはいえ、まだ総合診療を詳しく知らない方がいたり、全国的にも勉強する機会が少なかったりします。三重県では総合診療グループ(通称:三重総診)を組織しており、キャリア設計に合わせた研修や、成長を実感できる豊富な学びができる環境を整えています。

三重県は研修医の育成に関しても特徴的な点があり、県全体を1つとして考える「MMCプログラム」が実施されています。三重県の全初期研修病院(基幹型)が互いにすべての基幹型と提携し、研修医が自由選択期間に1カ月単位で研修ができる仕組みです。自分の病院でしかローテーションできない場合と比べて、より広い世界が見られる素晴らしいプログラムです。このように、三重県では人材育成の場が整っていて、コロナ禍以降はさまざまな勉強会もウェブ開催が増えたため、田舎にいても都会の勉強会に参加できるようになった今、情報格差はほとんどなくなったと言えるのではないでしょうか。そんな三重県で共に修練し、地域を支えていく仲間が増えたらいいなと思っています。

文化や海の幸・山の幸、子連れスポットに恵まれ、精神的な健康を得られた

三重県は県の土地が南北に長いこともあり、それぞれの地域ごとに多様な文化を感じることができます。食にも恵まれており、海の幸、山の幸も豊富で、しかもコストパフォーマンスがいい。以前に新宿に住んでいた時にデパートで見ていた値段と全然違うので驚きます。
三重県の自然の豊かさはよく知られたところで、当然、登山や釣りのスポットも多数ありますし、テーマパーク的な遊び場が多いのもありがたいですね。長島スパーランド、鈴鹿サーキット、伊勢忍者キングダム、鳥羽水族館、志摩スペイン村など、他にもたくさんありすぎて名前を挙げられないくらいです。
医師も人間ですから、日々の生活に直結する衣・食・住環境の豊かさはメンタルの安定という面からも重要だと思います。

元々は地元三重県のために・・・と思って帰ってきた私ですが、総合診療の充実が日本全体の幸福につながることに気づいてしまった今では、総合診療に長けた人材の育成が生活の中心になっています。また、伊勢の総合診療チームからいくつかの世界初症例も論文化しており、田舎から世界へと発信するアカデミックな活動も継続していきたいと考えています。
最後に、私たち医師は職業柄、どんな場所へ行っても、日々の研鑽によって得た知識・技術を使って病気・怪我で苦しむ人を救うことができます。人を救いたいという気持ちがあれば、どこでも努力できるし、成長できると思います。
どこでも、とは言いましたが、せっかくなら色んな魅力に溢れた三重県へお越しいただければと思います。

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